異例だからこそ鮮烈。稀有な戦争映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』

話題の戦争映画映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』を、さまざまな点から多角的に分析。その価値を読み解く。
小野寺系 2026.10.06
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 映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が、わずか8館という公開規模で、5万人の動員を突破するという快挙を果たしている。こうした異例のロングラン中に、どこまで記録が伸びるかが期待されている。

 そんな『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は、ベトナム戦争で米海兵隊員として従軍したアレン・ネルソン氏(1947年 - 2009年)をモデルにした作品。日本映画として製作されながら、アメリカ、ベトナム、タイでも撮影を行い、英語を中心とする国際的な内容となっている。

 ネルソン氏は戦場で兵士として人を殺害した経験を持ち、その後、驚くほどの熱心さで反戦活動家として自らの体験を語り続けた人物である。そんな経験や活動を綴った書籍などを基に、殺してしまった側の人間が、戦争における国としての加害と自分個人の加害をどう引き受けていくのかを描くのが、映画の核心となる。

 初期キャリアにおいて『鉄男』で大きく注目された塚本監督にとっては、近年の『野火』『斬、』『ほかげ』など、長年取り組んできた暴力の問題を、ベトナム戦争とアメリカ兵という、新たな場所へ広げた作品として見ることができるのも興味深い。

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 作品を観てまず感じたのが、この映画、かなりの予算と労力が投入された作品だということだった。とくに、ベトナム戦争を描く上で、戦闘や村落での虐殺の場面は、ハリウッド大作ほどの物量ではないにせよ、日本の独立系映画としては驚くほど大規模だ。今回は、その製作について、木下グループ/キノフィルムズが大きなバックアップをしているのだという。

 不思議なのが、当初は現在より多くの劇場で公開する計画が大幅に縮小され、直営館などに絞られたらしいという点である。なぜ、そんなにも力を入れて撮った映画を、わざわざ異例の対応をしてまで、公開縮小に踏みきったのか。さらに、本作が話題になってなお、拡大公開などの話が出てこない。悲しいのは、話題作であるにもかかわらず、全国8館での公開であること。東京より北の地方では、鑑賞ができないのだ。

 このミステリーについて、一部では、「政治的圧力がかかったのではないか」という疑惑が持たれている。最近の日本の政治事情を考えれば、企業にそうした働きかけがあるというのは、あり得ない話ではないのかもしれない。だが、憶測の域を出ていないのが実情ではある。数々の疑問点は残るものの、単なるビジネス上の調整や、映画自体とは関係のない内部トラブルの可能性もある。

 私も、キノフィルムズ関係者の名刺は持っているが、もし込み入った内部事情があったとして、それを教えてくれることはないだろうし、万が一聞いた時点で、私自身も漏洩しない義務を背負うことになるのだろう。

 しかし、そもそもこの見事な作品を生み出し、公開にまでこぎつけたのが、キノフィルムズ自身であることを忘れてはならない。自分たちの近くで上映されないという不満を表明することは観客として当然であり、情報不足から憶測を生むことも当然だ。どんどんやるべきだとは思う。

 だが、安易に映画会社自体を批判し、あまつさえ疑念をそのまま批判としてぶつける言動をしてしまったとしたら、今後は同様の企画に手を出しにくくさせてしまい、元も子もなくなることも考えられる。本作が貴重な作品だからこそ、映画やキノフィルムズの取り組みを応援したいと思う。

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 では、本作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』の何が、そんなに凄いのか。私は、試写で本作を観る前に、国際映画祭での上映後の、批判的な海外評に接した。その批判の中心となっていたのは、おおむね「反戦メッセージが単純すぎる」、「図式的で不自然」というもの。

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